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私たちは日常生活の中で、さまざまな音に囲まれて暮らしています。目覚まし時計のアラーム、自動車や電車から発せられる様々な音、工事の音、そしてスポーツの試合で響くホイッスル(笛)の音などがあります。
これらの音の大きさを私達は、「うるさい」、「静か」と感覚的に判断しています。しかし、他の人に音の大きさを言葉だけで正確に伝えるのは簡単ではありません。なぜなら、音の感じ方は個人の主観や体調、気分、周囲の環境によって変わるからです。そこで活躍するのが、音の大きさを客観的な数値として測定する騒音計です。
本記事では、音の測定方法と、音の分析を行う上で必要な基礎知識について解説し、ホイッスルの音の測定事例を紹介します。
騒音計は、マイクロホンで測定した音を電気信号に変換し、後述する周波数重み付け特性や時間重み付け特性による処理を行って、音の大きさや特徴を液晶画面に表示する測定器です。騒音計の性能は、日本産業規格のJIS C 1509-1 電気音響-サウンドレベルメータ(騒音計)-第1部:仕様によって定められており、精度に応じて以下の2つのクラスに分類されます。
クラス1(精密騒音計): 測定の精度が高く、主に学術研究、公的な証明、法的な騒音調査などで使用されます。対応する周波数範囲も広く設計されている機種です。
クラス2(普通騒音計): 一般的な工場や工事現場の環境測定、製品開発の一次評価などで広く使用されている、実用的な機種です。

図1 当センターの騒音計(株式会社小野測器 精密騒音計LA-7500、JIS C 1509-1 クラス1)
音は空気の振動(圧力の変動)であり、この空気の圧力を音圧(単位:Pa(パスカル))と呼びます。音圧は音の大きさを客観的に示します(ただし、音の聞こえやすさとは異なります。)。 人間が聴き取れる最も小さな音圧は約0.00002Pa(20μPa)で、これは極めて微小な値です。一方で、ジェット機のエンジン周辺では数十Pa以上に達します。このように音圧は、扱う数値の範囲が非常に広いため、そのまま使用すると桁数が多くなり不便です。
そこで、音圧を表現する指標として、人間の聴覚特性に合わせて対数(ログ)を用いて変換した「音圧レベル(単位:dB(デシベル))」が広く使われています。デシベルを用いることで、人間が聴き取れる最小の音を0 dB、耳に痛みを感じるほどの大きな音を140dB程度という扱いやすい数値の範囲に収めることができます。
図2は、私たちの身の回りの音を音圧レベルの一種である等価騒音レベルで表してまとめたものです。
図2 音圧レベルの目安 出展:「全国環境研協議会 騒音調査小委員会」
騒音計を使って正しく測定を行うためには、測定対象や目的に応じた設定が必要です。ここでは設定時に理解しておくべき代表的な用語を解説します。
人間の耳は、周波数(音の高さ)によって聞こえやすさが異なります。例えば、同じ音圧であっても、周波数が高い音は大きく聞こえ、低い音は小さく聞こえます。 測定した音圧を周波数に応じて補正して、人間の耳での聞こえ方(感じ方)に近い音圧に調整する処理が周波数重み付け特性による補正です。
補正の種類はA特性、C特性、Z特性の3種類あります。3種類の補正のイメージをグラフにしたものが図3です。縦軸の相対レスポンスは、各周波数の音圧をどのくらい減衰又は増幅するかを示す値です。補正は、人間の可聴域である20~20000Hzの範囲で行います。A特性とC特性を比較すると、A特性の方が低い周波数範囲の音圧レベルを低く評価するような補正になっていることがわかります。
- A特性:人間の聴覚特性に最も近い補正です。
人間の耳で聞き取りやすい2000~4000Hzの範囲はそのままの音圧を保持して、聞き取りにくい周波数範囲は音圧を減衰させます。
一般的な騒音評価や、環境基準の測定では原則としてA特性を使用します。
- C特性:人間が大きな音を聞いた時の聴覚特性に近い補正です。平坦な周波数特性に近く、主に大きな音や衝撃音、低音域の影響が疑われる場合に使用します。
- Z特性:補正を一切行いません。人間の可聴範囲を考慮せず、騒音の音響特性そのものを評価するときに使用します。
図3 周波数補正のイメージグラフ(周波数重み付け特性)
音は常に変動しています。騒音計の表示や記録が細かく変動しすぎると値が読み取れないため、表示の変化を滑らかにする(時間的な平均化を行う)設定を行います。FとSの2種類があります。
FとSは、時定数の値が異なります。時定数は、音の変化をどの程度緩やかにするかを調整する指標で、値が大きいほど音の変化が緩やかになります。
- F(Fast、時定数125ms):細かく変動する音の測定に適しています。また、人間の耳が音を捉える時間感覚に近いため、通常の測定ではこちらを使用します。
- S(Slow、時定数1s):変動が緩やかな音や、平均的なレベルを安定して把握したい場合に使用します。
測定した音の大きさを評価する指標は、目的に応じて使い分けます。代表的なものは、騒音レベル、時間重み付き騒音レベル、最大騒音レベル(時間重み付き騒音レベルの最大値)、等価騒音レベル(時間平均騒音レベル)です。騒音計で音圧レベルを測定する際には、「人間の音の感じ方」や「健康への影響」を科学的に評価するのに適していることから、最大騒音レベルや等価騒音レベルが多く使用されます。
- 騒音レベル(LpA):A特性で補正した音圧を音圧レベルで表したものです。
-時間重み付き騒音レベル(LpA,F又はLpA,S):時間重み付け特性を掛けて測定する騒音レベルです。使用する特性に応じて、添え字がFかSに代わります。
- 最大騒音レベル(LpA,Fmax又はLpA,Smax):測定時間内における時間重み付き騒音レベルの最大値です。
- 等価騒音レベル(LAeq,T):時間経過と共に変動する騒音レベルをある時間間隔で区切り、エネルギー的に平均化した値です。環境騒音の評価で最もよく用いられます。
騒音計による音の測定の流れを、樹脂製ホイッスルの音圧レベルと周波数特性を測定した事例で紹介します。
図4は、測定したホイッスルです。
ホイッスルの音.m4a(クリックするとホイッスルの音を聞くことができます。)
図4 測定した樹脂製ホイッスル
株式会社小野測器 精密騒音計LA-7500(JIS C 1509-1 クラス1(精密騒音計)に適合) ※設備使用にて一般利用可能です。
周波数重み付け特性:A特性
時間重み付け特性:F
音圧レベルの評価指標:LpA,Fmax(最大騒音レベル)、騒音計の画面上の標記は「LAFmax」
周波数特性の分析手法:FFT分析(※1)及び1/3オクターブバンド分析(※2)
※1:音を周波数成分に分解して、音の特徴を調べる分析手法です。
※2;音を決まった周波数帯域ごとに分解して、各帯域ごとの音の大きさを調べる分析手法です。
1オクターブは、周波数が倍になることを意味しており、1/3オクターブバンド分析では、1オクターブを1/3ずつの周波数帯域に区切った
うえで、各周波数帯域の音の大きさを評価します。評価する周波数帯域は、JIS規格で決まっています。
1/3オクターブバンド分析は人の聴覚特性を考慮した分析であるため、分析結果と音の感じ方の相関が良いという特徴があります。
騒音計を三脚に設置して、騒音計のマイクロフォン部に対向する位置にホイッスルを設置します。騒音計のマイクロフォンの先端には通常、風防を取り付けて使用します。測定対象物によっては、測定対象物から騒音計までの距離や、騒音計の地面からの高さがJIS規格やISO規格で規定されている場合があります。
JIS Z 8731:2019 環境騒音の表示・測定方法においては、屋内で騒音測定する際の指針として、壁等の反射面から1m以上離れ、床から1.2~1.5mの高さで測定するよう記載されています。ホイッスルには規定がありません。今回は、壁等の反射面から1m以上の距離をとり、床面から1.2mの高さに騒音計を設置しました。また、騒音計からホイッスルまでの距離は1mとしました。図5は測定の様子です。
音を測定する際には、周囲の環境の影響を受けない無響室環境で測定することが望ましいですが、今回は、ホイッスルから出る音の音圧レベルと、大まかな周波数特性を把握することが目的のため、暗騒音が低い、広い空間にて測定を行いました。暗騒音とは、測定したい音以外の周囲の全ての音です。測定場所の暗騒音は29.8dBでした。
図5 測定の様子
音圧レベル測定、FFT分析、1/3オクターブバンド分析は、それぞれ騒音計の測定モードを切り替えて行います。各測定モードの測定画面を図6に示します。いずれの測定モードでも、図6に示す画面上のスタートボタンを押すことで測定が始まります。スタートボタンを押したあと、ホイッスルに空気を送り込んで音を出して測定しました。
図6 騒音計の測定画面
ホイッスルに空気を送り込んで音を出す際には、図7に示す手動の空気入れを使用しました。ピストンを動かす速度を一定に保つようにして、毎回一定の風量となるように調整しました。
今回は、手動の空気入れを使用しましたが、より厳密に風量を調整する場合には、エアーコンプレッサを使用します。
図7 空気を送り込むために使用した空気入れ
測定した最大騒音レベルは、3回の測定の平均値で78.5dBでした。暗騒音の音圧レベルである29.8dBとの差が十分あるため、暗騒音による影響は無視できると考えられます。一般的には、暗騒音の音圧レベルに対して、測定対象物から発生する音が10dB程度高ければ、暗騒音の影響を無視できると考えられています(JIS Z 8731:2019 4.5 定常騒音の測定方法)。
図8は、ホイッスルの音をFFT分析した結果です。横軸が周波数(Hz)、縦軸が音圧レベル(dB)です。最初のピークが2500Hzで確認できます。この2500Hzが測定したホイッスルの基本周波数です。基本周波数のピークに加えて、4953Hz、7531Hz、10172Hzのピークが確認できます。

図8 FFT分析結果
1/3オクターブバンド分析をした結果が図9です。今回測定したホイッスルでは、2500Hz帯と10000Hz帯の音圧レベルが高くなっていました。
FFT分析では基本周波数の約2倍、約3倍、約4倍と周波数が高くなるにつれて、形成されるピーク値は低くなっていますが、1/3オクターブバンド分析では約4倍の周波数である10000Hz帯の音圧レベルのピーク値は逆に高くなっています。これは、高周波数域ほど、バンド幅(周波数帯域)が広くなり、10172Hz周辺のエネルギーが広い帯域で足し合わされたためです。このように、1/3オクターブバンド分析は、高音ほど広い帯域で知覚するという人の聴覚特性を反映しており、人がこのホイッスルの音を聞いた際には、2500Hz帯の音が強く聞こえていると考えられます。
図9 1/3オクターブバンド分析結果
以上をまとめると、今回測定したホイッスル音は、最大騒音レベルの平均は78.5dBであり、これは図2の等価騒音レベルと照らし合わせると地下鉄の車内やセミの鳴き声と同程度の音の大きさであることがわかりました。また、ホイッスルの音は、2500Hz帯の音が支配的であることがわかりました。人の聴覚で聞き取りやすい周波数は2000~4000Hzと言われていることから、今回測定したホイッスルからは人が聞き取りやすい音が出ています。
今回は、騒音計による音の測定と分析の基礎について御紹介しました。騒音計を使用することで、音の大きさを定量的に比較することができるようになります。今回測定に使用した騒音計は一般開放しておりますので、依頼試験や設備使用にて御利用いただくことが可能です。また、騒音計で取得した音のデータを周波数分析装置を用いて分析することで、より詳細な分析も可能です。
当センターでは、音の測定だけでなく、音と関連して検討されることが多い振動についての測定や分析も行っています。さらに、振動については、振動の基礎や振動特性の評価手法、振動データの活用法について学ぶことのできる研修会も開催しています。
音・振動データの取得や分析、データの活用について御相談がございましたら、お気軽に御連絡ください。
工業技術センター システム技術室
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