広島市工業技術センター

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技術情報「分析分科会における分析技術共同研究について」

 当センターでは、鉄鋼やアルミニウム合金等の金属材料に含まれる元素について、依頼試験として定量分析を実施しています。分析にはICP発光分光分析装置(図1)や炭素・硫黄分析装置(図2)等の高性能な装置を使用します。装置が高性能であっても信頼できる分析値を提供するには、分析原理を理解すること、装置を正しく操作すること、測定環境を整備すること、測定者の技能を向上させることが必要です。
 全国の公設試験研究機関等で構成される産業技術連携推進会議の分析分科会において、年に1回、分析技術共同研究を実施しています。これは、公設試験研究機関の分析精度と技術向上を目的に1957年から毎年開催されているもので、2024年は第67回の開催となりました。共同研究参加者は同じ試料を分析対象として、それぞれが選択した手法で分析を行い、会議の場で分析結果の比較検討を行うことで、分析手法や分析技術の問題点について協議します。
 当センターは、分析手法の妥当性確認のため積極的に共同研究に参加し、分析精度のクロスチェックと分析技術向上に努めています。今回は、第67回分析技術共同研究に参加した結果について情報提供します。

試料

 共同研究の試料として、徐冷スラグ破砕品(図3)が配付されました。これは、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する際に生じるフェロニッケルスラグと呼ばれるもので、二酸化けい素(SiO2)や酸化マグネシウム(MgO)が多く含まれており、コンクリートの補強材等に使用されているものです。今回は、けい素(Si)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)が分析対象元素として指定されました。

試験方法

 事務局からは、分析の参考資料として、日本産業規格(JIS)のJIS M 8852「セラミックス用高シリカ質原料の化学分析方法」、JIS M 8853「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」、JIS M 8214「鉄鉱石-けい素定量方法」が提示されました。これらの規格を参考に検討を行った結果、マグネシウム、鉄、ニッケルはICP発光分光分析で、けい素は重量分析で実施することとしました。それぞれの手法の簡単な原理や分析中に検討した点を以下に示します。

<ICP発光分光分析>

 ICP発光分光分析を行うためには、試料を図4のように酸溶解する必要があります。酸溶解した溶液をプラズマで発光させ、その光を分光して、波長ごとに発光強度を測定します。なお、プラズマ発光の波長は元素ごとに固有のものが存在し、測定する波長を指定することで、分析対象元素の発光強度を得ることができます。元素濃度が既知の溶液を用い、発光強度と元素濃度の関係性を示す検量線(図5参照)を作成することで、試料中の元素濃度を求めることができます。この分析で重要なポイントは試料を適切な方法で溶かしきって酸溶液にすることです。今回の試料は酸のみで溶液にすることが難しかったため、アルカリ性の固体と試料を混合して約1000℃に加熱することで試料を酸に可溶な状態とするアルカリ融解という手法を用いました。

<重量分析>

 この手法は、試料からけい素化合物を固体として分離し、薬品等により処理し、揮散した酸化けい素の質量の差を測定することで、試料中に含まれるけい素含有量を求める分析方法です。
 試料に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を加えて加熱分解し、塩酸(HCl)を加えると、試料中の二酸化けい素が以下のように反応し、ゲル状のけい素化合物を得られます。

①SiO2 + Na2CO3 → Na2SiO3 + CO2

②Na2SiO3 + 2HCl → 2NaCl + H2SiO3(ゲル状固体)

反応で生じたゲル状固体に凝集剤のポリエチレンオキシド溶液を加えて凝集させ、ろ紙で分離します。分離した固体はろ紙ごと白金るつぼに入れ、マッフル炉で強熱します。強熱により、ろ紙や凝集剤等の有機物や水分が除去され、白金るつぼ内に酸化けい素が残ります(図6)。ここで、白金るつぼの質量を測定します。その後、白金るつぼにふっ化水素酸(HF)溶液を加えると、固体の酸化けい素と反応し、気体の化合物として揮散します。再び白金るつぼを強熱して質量を測定し、酸化けい素を揮散させる前後の質量差から、白金るつぼ内に入っていた酸化けい素の質量を求めました。その後、酸化けい素の質量からけい素の質量を算出し、試料中のけい素含有量としました。

試験結果

 当センターの測定結果と共同研究で集計し、統計的に整理した結果の中央値は表1のとおりです。参加数は、37機関、76名でした。分散指標は、中央値の周りに、データがどの程度ばらついているかを数値として示すものです。当センターによるマグネシウムの測定値が共同研究の中央値や分散指標の範囲からずれてしまいましたが、その他の元素は同程度の結果でした。他の公設試験研究機関による分析結果の報告には、当センターの実施した分析手法以外に、蛍光X線分析法や吸光光度法、原子吸光法等、多様な手法によるものがありました。会議の場では、集計結果を用いて、分析手法ごとの妥当性や分析結果にずれが生じてしまう原因等が議論されました。共同研究への参加により当センターで実施した分析手法の改善点を見出し、再検討を行い、今後の分析に活用することで、信頼度の高い分析値を提供できるよう努めています。

元素名

当センター測定値(質量%)

共同研究全体の測定値
中央値(質量%) 分散指標
Si 24.84 24.95 0.67
Mg 19.09 21.39 0.69
Fe 3.996 3.971 0.154
Ni 0.04791 0.05239 0.00866

表1 当センター測定値と共同研究で公表された中央値

終わりに

 今回は、分析精度の管理や分析技術向上に有用である分析技術共同研究への参加と、その結果について御紹介しました。成分分析に関するご相談は下記までお問い合わせください。

問い合わせ先

工業技術センター 
TEL : 082-242-4170(代表)
E-mail : kougi@itc.city.hiroshima.jp

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