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技術情報の提供「スクラッチ試験機の活用事例」

 令和4年度に公益財団法人JKAの補助を受けて、「スクラッチ試験機」を導入しました(図1)。今回は、スクラッチ試験の概要と活用事例を御紹介します。

図1 スクラッチ試験機

試験機の主仕様

・試験機器:ナノビア社 CB-500型
・試験荷重範囲:1~200N
・最大スクラッチ速度:1200mm/min
・対物レンズ:5倍、20倍、50倍の3種類
・スクラッチ圧子径:200μm、50μm、20μmの3種類
・Pre-SCAN及びPost-SCANが可能(スクラッチ前と後の表面形状のSCANデータを基に、スクラッチ深さのデータを得ることができます)
・最大SCAN速度:10mm/min
・Acoustic Emission*1(以下「AE」)センサーによる微視的破壊挙動検知が可能

*1 材料変形時や亀裂発生時に、個体が発生する弾性波のことです。金属材料では、AEの検出により材料内の変形や破壊等を把握することができます。また、身近な例では、地震波の早期検知や、建造物の内部状態監視等に利用されています。
  当センターに導入した試験機では、AEをエネルギー量[J]としてデータ検出する仕組みとなっており、1[aJ](1×10-18[J])から測定可能です。

図2 Acoustic Emissionのイメージ図
(「アコースティックエミッション計測の基礎」、埼玉工業大学 長谷亜蘭、精密工学会誌Vol.78,No.10,2012)

試験機の概要

 スクラッチ試験機とは、金属、樹脂、めっき等の各種コーティング被膜の表面を、ダイヤモンド製の針でスクラッチ(引っ掻く)することで、被膜の性質(延性又は脆性)、密着性(剝がれやすさ)及び摩擦係数等を一度に評価することができる試験機です。例えば、硬いコーティング被膜をスクラッチした場合、荷重が大きくなると割れが生じ、最終的に被膜が剥がれてしまいます。この割れや剥がれが発生するときの荷重や圧子の押し込み量を測定することで、密着性等の評価が可能です。
 なお、荷重の負荷方法は、目標荷重に対して徐々に荷重を増加させるプログレッシブモードと、一定の荷重を負荷するコンスタントモードの2種類があります。

試験の流れ

1 試料の固定

 試料を適当な治具でクランプします。

図3 左右からクランプした状態の一例            図4 上からクランプした状態の一例

2 スクラッチ位置の決定

 顕微鏡で観察を行いながら、スクラッチする位置を決定します。スクラッチ位置が決定した後、試料を顕微鏡ステージ(図5(a)参照)からスクラッチステージ(図5(b)参照)へ移動させます。

図5(a) 顕微鏡ステージ時                 図5(b) スクラッチステージ時

3 スクラッチ条件の設定

 スクラッチするにあたって、条件を設定します。
 ・荷重負荷モード:プログレッシブモード or コンスタントモード
 ・スクラッチ速度[mm/min]
 ・スクラッチ距離[mm]
 ・スクラッチ荷重[N]

 (Pre-SCAN及びPost-SCANを実施する場合)
 ・SCAN荷重[N]
 ・SCAN速度[mm/min] ※自動設定

4 スクラッチの開始

 スクラッチを開始すると、スクラッチ圧子は静止したまま荷重を負荷し、試料をクランプしているステージが図6に示す黄矢印方向に移動して、試料表面をスクラッチします。スクラッチ終了後、試料をスクラッチステージ(図5(b)参照)から顕微鏡ステージ(図5(a)参照)へ移動させます。

図6 スクラッチ中

5 スクラッチ痕の観察及びサンプリングデータの確認

 スクラッチ後、顕微鏡でスクラッチ痕の観察及びサンプリングデータの結果を確認します。
 図7は、当センターで実施したアルミニウム板上に施された無電解Niめっきのスクラッチ試験結果です。当試験機は、図のようにスクラッチ痕の観察と各種データの確認を併せて実施することが可能です。サンプリング可能なデータは以下のとおりです。
 ・負荷荷重[N]
 ・摩擦荷重[N]
 ・摩擦係数
 ・Acoustic Emission[aJ]

Pre-SCAN及びPost-SCANを実施した場合)
 ・スクラッチ深さ[μm]

 図7中の青線は試験荷重で0~30Nまで徐々に増加しています。また、図中の緑線は摩擦荷重で、赤線は摩擦荷重を元に算出した摩擦係数です。そして、黒線はAEの検出結果です。
 図7中の上部には、スクラッチ痕の観察結果が示されており、スクラッチが進行(荷重が増加)していくと、赤□で示す部位以降で連続的な亀裂の発生が確認できます。以降、亀裂の発生に呼応して、AEが頻繁に検出されています。最初に目視で亀裂が発生した際の荷重15Nを「臨界荷重」と呼びます。鷹合氏らの報告*2では、Niめっきの臨界荷重を10~20Nと報告しており、今回の試験で得られた15Nの臨界荷重はよく一致していました。
 なお、AEが全体的に亀裂の発生より少し遅れて検出されていることについては、AEセンサーが試験体ではなく、スクラッチ圧子に取り付けられていることに起因するもの*3と考えられます。

*2:「硬質膜の密着性評価技術に関する研究―スクラッチ試験によるニッケルめっきの密着性評価―」
  鷹合滋樹、安井治之、上村彰宏、井上智実、石川県工業試験場 平成24年度研究報告VOL.62

*3:「アコースティックエミッション計測の基礎」
  埼玉工業大学 長谷亜蘭、精密工学会誌Vol.78,No.10,2012

図7 アルミニウム板上に施された無電解Niめっきのスクラッチ試験結果

図8 図7の臨界荷重の箇所の亀裂(図7中の赤□箇所)

おわりに

 スクラッチ試験機は、金属、樹脂、めっき等の各種コーティング被膜の表面をスクラッチ(引っ掻く)することで、その性質、密着性等を評価することができます。負荷荷重のほか、摩擦係数やAEを数量データとして取得でき、従来、定性評価だった試験を定量的に評価できる装置です。
 当センターでは、各種材料やコーティング被膜の性質、耐摩耗性等を評価する装置として、高温摩耗試験機、往復しゅう動式摩擦摩耗試験機及びテーバー摩耗試験機も備えております。
 まずはお気軽にご相談ください。

問い合わせ先

工業技術センター 材料技術室
TEL : 082-242-4170(代表)
E-mail : kougi@itc.city.hiroshima.jp

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