広島市工業技術センター

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技術情報の提供「金属組織の観察について」

 金属材料は、金属原子が規則正しく配列してできた結晶の集合体であり、一般的には多結晶体です。金属組織とは、結晶の配列、大きさ及び構成のことです。
 金属組織は、化学組成の違いはもちろんのこと、加圧などによる変形、そして熱処理の影響により変化します。例えば、テレビなどで日本刀を作っている様子をご覧になった方は多いと思います。作刀工程では、日本刀の材料となる鉄を真っ赤になるまで加熱して、金槌で叩いて鍛え、最後に水で急冷します。この作業によって、刀身中の金属組織を変化させて、硬さと粘りのある鉄へと変質させています。
 金属組織と材料特性は密接な関係があり、金属組織を観察することで、材料の特性を予想することができます。今回は、金属組織の観察方法について紹介し、金属組織観察が問題解決につながった事例を紹介します。

〇金属組織の観察方法について

 金属組織観察用の試験片は、図1の工程で作製します。当センターでは、この作業に図2の機器を使用しています。

図1 金属組織観察までの工程


図2 使用機器


〇金属組織観察による材料の不良原因調査事例

 製造ロットの異なる二種類の球状黒鉛鋳鉄FCD450-10(以下、A試料及びB試料)について引張試験を行いました。球状黒鉛鋳鉄は、鉄を主成分とした鋳物用の材料で、金属組織中に球状の黒鉛が存在しています。球状黒鉛鋳鉄の引張特性(0.2%耐力、引張強さ、伸び)は、日本産業規格(JIS規格)で規定されており、表1に示すとおりです。引張試験の結果では、A試料は、表1の引張特性の数値を満たしていましたが、B試料では、伸びの規定を満たしていませんでした。

表1 球状黒鉛鋳鉄FCD450-10の引張特性

 

 




 図3に、引張試験後の破面の観察結果を示します。破面を観察してみると、B試料では、破面全体がキラキラとした銀白色の見た目をしています。これは、材質が脆性的(脆い)であることを示しています。このため、伸びが少なくなったものと予想されます。

図3 引張試験後の破面の観察結果
                   (a) A試料
                   (b) B試料            


 ここで、なぜB試料が脆性的な性質になったのかを明らかにするため金属組織を観察することとしました。図4は、A試料及びB試料の金属組織の観察結果になります。エッチング液には、ナイタール溶液(硝酸エタノール溶液)を使用しました。A試料の組織は、軟らかいフェライト(白色部)、比較的硬いパーライト(灰色部)を主要組織とし、球状の黒鉛(黒色部)が晶出した一般的な球状黒鉛鋳鉄の組織となっていました。一方、B試料では、パーライトが主要組織となっており、A試料には確認されなかったセメンタイトが認められました。セメンタイトは、鉄と炭素の化合物(炭化物)であり、非常に硬く、脆い性質です。鋳鉄の組織中にセメンタイトが晶出することをチル化と呼びます。チル化すると、材料の延性は極端に失われます。つまり、チル化がB試料において伸びが少なかった原因であることが分かりました。チル化は材料を溶かした状態から固まるまでの冷却速度が速い場合や、化学成分構成や接種方法(黒鉛化を促す方法で、合金元素の内、主にケイ素の添加方法とその量に影響される)によって黒鉛化が不十分である場合に発生します。このような場合、「鋳型の形状、大きさ」、「鋳込み温度」、「鋳型のばらし温度」、「接種の量とその方法」等、チル化につながる要因についての見直しを行うことになります。今回の事例では、わずかに「化学成分の構成」を変更することで、問題解決しました。

図4 金属組織の観察結果
                     (a) A試料
                     (b) B試料

 同じ材料でも製造過程や熱処理の違いにより、変形、破壊が起こり、トラブルの原因になることがありますが、金属組織を観察することで、解決につながることもあります。当センターでは、金属組織の観察用試験片の作製から観察まで、対応しています。まずはお気軽にご相談ください。

■問合せ先

工業技術センター 材料技術室
TEL 082-242-4170(代表)
E-mail:kougi@itc.city.hiroshima.jp

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